遺言書を書いても修正、撤回が容易にできないのであれば、遺言書を書くこと自体をためらってしまうかもしれません。
 遺言書の修正や撤回はもちろん可能です。
 ただし、正しい方法で行わなければ修正や撤回がなかったことになってしまう可能性があります。
 まず、遺言書の修正や撤回をするときは、遺言書でしか行うことはできないのが原則です。
 もっとも、別の項目でお話しするように、遺言書にはいくつか方式がありますが、前の遺言書と同じ方式でなくてもかまいません。たとえば、前回、公正証書の方式で遺言書を作成したとしても、自筆証書遺言や秘密証書遺言で修正や撤回をすることができます。
 しかし、修正や撤回にも守らなければならない要件があります。
 まず、前の遺言書の全部を修正、撤回したい場合は、新しく作成する遺言書において、すべての項目の内容を前の遺言書の内容と矛盾するように作成します。この場合、特段、「前の遺言内容をすべて修正、撤回する。」と書いておく必要はありません。もっとも、書いておくことで、確実にすべての項目の内容を修正、撤回することができます。
 次に、遺言書の一部のみを修正、撤回したい場合は、新しく作成する遺言書において、「前の遺言のうち、○○○○とした部分を修正、撤回する。」と書くことで、その部分のみが修正、撤回されます。
 例外的に、遺言書を書かずに遺言書の修正や撤回をすることもできます。
 まず、遺言者がわざと遺言を破棄した場合は、破棄した部分を撤回したとみなされます。
 自筆証書遺言を自分で保管している場合には、遺言書を自分で破棄してしまえば遺言書を撤回したものとみなされます。
 もっとも、公正証書遺言の場合は、遺言の原本が公証役場に保管されているため、手元に保管している正本や謄本を破棄したとしても、撤回したことにはなりません。自筆証書遺言が法務局に保管されている場合も同様です。
 また、遺言者が遺言書の作成後、遺言書の内容と矛盾する行為をした場合も、遺言書の修正や撤回をしたとみなされます。
 たとえば、遺言書に「○○を××に相続させる。」と書いた後に、○○を売却してしまった場合や故意に壊してしまった場合には、遺言書のその部分のみ、遺言が修正、撤回されたことになります。
 いずれにしても、遺言書の修正、撤回は修正、撤回によって不利になる相続人にとって無関心ではいられず、新しい相続トラブルを生む可能性があります。内容について多義的であったり曖昧であったりして不要なトラブルを生まないように、弁護士にしっかり内容の確認をしてもらうことが安心です。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
同事務所代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。