遺言書に記載することができる事項(法定遺言事項)は、①自分の財産をどの相続人にどのように分配するか、という財産の分配に事項に関することだけではありません。
 ②身分に関する事項や、③遺言執行に関する事項についても記載することができます。
 まず、①の事項としては、a相続人の廃除および廃除の取り消し、b相続分の指定、c遺産分割方法の指定、d遺産分割の禁止、e特別受益の持戻し免除、f共同相続人の担保責任に関する意思表示、g遺留分侵害額請求の方法、h包括遺贈・特定遺贈、i生命保険金受取人の変更、j寄付、一般財団法人の設立、があります。
 aの相続人の廃除とは、生前、遺言者に対して虐待や重大な侮辱を加えていた相続人の相続権を剥奪することです。
 bの相続分の指定とは、「財産を誰に何割相続させたいか」を決めることです。
 cの遺産分割方法の指定とは、具体的に個々の財産を指定して相続させることです。
 dの遺産分割の禁止とは、5年を超えない範囲で遺産の分割を禁止することです。
 eの特別受益の持戻しとは、生前贈与を受けていた相続人がいる場合に、各相続人の相続分を計算する際に、その価額を相続財産に加えて計算することです。しかし、遺言書で、この持戻しの計算を免除した遺産分割を指定することができます。
 fの共同相続人の担保責任に関する意思表示とは、相続人が受け取った遺産に欠陥があり、遺言者の想定よりも価値が低かった場合に、他の相続人がその差額分を補填するべきかどうかを指定することです。
 gの遺留分とは、一定の相続人に認められている最低限の相続分です。実際に相続した財産が遺留分よりも少なかった場合、その相続人は、贈与または遺贈を受けた人に対して遺留分侵害額の請求をすることができます。この請求の相手方や順番を遺言によって指定しておくことができます。
 hの遺贈とは、遺言によって相続人以外の人に財産を渡すことです。割合を指定して遺贈するものを包括遺贈、財産を指定して遺贈するものを特定遺贈といいます。
 iの生命保険金受取人の変更とは、遺言書で生命保険金の受取人を指定したり、変更したりすることです。なお、別の項目でお話しする通り、生命保険金は相続税対策としても有効です。
 jの寄付、一般財団法人の設立とは遺言書で個人や団体に財産を寄付したり、財団法人を作ったりすることです。
 次に、②の事項としては、k子の認知、l未成年後見人・未成年後見監督者の指定、m祭祀承継者の指定、があります。
 kの子の認知とは、遺言書で子を認知することです。これによって親子関係が発生するため、認知をされた子は法定相続人になります。
 lの未成年後見人・未成年後見監督者の指定とは、相続人の中に未成年者がおり、親権者がいない場合に、遺言書で後見人または後見監督者を指定することです。
 mの祭祀承継者の指定とは、遺言書で祭祀承継者を指定することです。
 さらに、③の事項としては、n遺言執行者の指定・委託、o信託の設定、があります。
 nの遺言執行者とは、遺言の内容を確実に実現するために必要な手続きを行う人のことをいいます。その権限は、相続財産目録を作成したり、金融機関などで解約手続きや貸金庫の開披をしたり、不動産名義変更手続きをしたりといった広い範囲に及び、遺言執行者を指定しておくことで相続手続を円滑に進めることができます。
 oの信託とは、第三者に自分の財産の管理や処分などを行わせることです。将来、判断能力が低下した場合に備えて、財産を適切に管理してもらうための制度であり、遺言書で設定することもできます。
 以上の法定遺言事項以外に、法的効力を持たないものの、遺言者の意思や考えを遺言に示すこともできます(付言事項)。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
同事務所代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。