配偶者は、法律上、相続の点でも、相続税の点でも、他の相続人に比して格別に優遇されています。
 これは、わが国の法律が法律婚主義を採用し、法律婚は事実婚よりも優遇されるべきという立場をなおも維持しているからです。
 具体的には、まず、相続の点では、法定相続分の優遇があります。
 法定相続分は、①相続人が配偶者と子の場合には、配偶者が2分の1で、残り2分の1を子が平等(ただし両親の一方のみが同じ子は他の子の2分の1)に、②相続人が配偶者と親の場合には、配偶者が3分の2で、残り3分の1を親が平等に、③相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合には、配偶者が4分の3で、残り4分の1を兄弟姉妹が平等に、とされており、どのような場合であっても、配偶者は最低でも2分の1を相続できることになっています。
 また、相続の点では、配偶者居住権や配偶者短期居住権が認められるという優遇もあります。これについては別の項目(配偶者居住権につきこちら、配偶者短期居住権につきこちら)でお話ししたいと思います。
 次に、相続税の点では、まず、配偶者に居住用不動産などの生前贈与をした場合には、要件を満たせば、贈与税の配偶者控除の特例により、暦年贈与の基礎控除額110万円に加えて、2000万円までの配偶者控除が受けられることは、別の項目でお話しした通りです。
 生前贈与については場合によって相続分の計算の際に特別受益としてその贈与額を持ち戻されることがあります。
 しかし、上の居住用不動産の生前贈与については、被相続人が配偶者の相続分をその分だけ減らすという意思を有していないことが通常と考えられることから、平成30年の民法改正で持戻し免除の推定規定が置かれることとなりました。
 また、相続税の点では、相続により取得した財産のうち、1億6000万円までの価額については、相続税の配偶者税額軽減の特例を受けられるという優遇もあります。
 以上のことからわかるように、配偶者は他の相続人に比して格別に優遇されています。
 一方、最近よく見られる事実婚の事実上の配偶者は、法律上の配偶者ではないため、このような優遇を受けられないばかりか、相続人でもないため、相続において法律上の配慮や特例を受けることもできません。
 配偶者居住権や配偶者短期居住権も保証されない結果、このような事実上の配偶者が、パートナーと長年連れ添って住んだ住まいを追い出されるケースも散見されます。
 また、仮にこのような事実上の配偶者のために生前贈与や遺贈をした場合には、贈与税の配偶者控除や相続税の配偶者税額軽減の特例を受けられないばかりか、相続人以外の者として2割加算の対象となってしまいます。
 法律婚のみが望ましいパートナー関係であるわけでは決してありませんが、事実婚をされている方は、相続や相続税におけるこのような結果をよくお考えになって、法律婚についても一度お考えになり、事実婚を選択される場合には、そのデメリットをどのような形でカバーするかということにまで踏み込んでお考えになることをお勧めします。
 また、弁護士に相談する際にも、そのような点についてもアドバイスしてくれるかどうか、税金に明るいかどうかという点を重視されると良いでしょう。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
同事務所代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。