相続人がそれぞれ別々の税理士に相続税の申告書の作成を依頼することは法律上は特に問題ありません。
 特に遺産分割協議などで対立が生じた相続人の間では、そのようなケースもよく見られます。
 ただし、相続財産の評価方法や相続税の計算は複雑である上、各相続人が税理士に依頼する際の基礎となる認識や資料も必ずしも一致していないため、それぞれ別の税理士に依頼した場合、相続税の総額や各人の相続税額など、申告書に記載される内容に食い違いが生ずる可能性もあります。
 そして、そのような申告書が提出された場合には、税務調査のリスクが格段に高くなります。
 配慮のある税理士であれば、このような状況では、先に申告書を作成した税理士に連絡を取り、その記載内容について確認することもありますが、絶対にそうするというわけではなく、また、確認した結果、自己の判断が正しいと考えれば、先に作成された申告書と異なる内容の申告書を作成することももちろんあります。
 また、各相続人が別々の税理士に依頼した場合、それぞれの税理士は独立して資産評価を行う結果、各相続人が全員で同一の税理士に申告書の作成を依頼し、費用を按分した場合に比べて、申告書の作成について税理士に支払う報酬・費用額が高くなることもありえます。各相続人がそれぞれ添付書類を準備しなければならないという手間も発生するので、これらのデメリットを良くお考えになり、それでも相続人間で足並みをそろえることができないのであれば、別々の税理士に依頼することにされると良いでしょう。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。